「愛してる、狗木ちゃん」

「…うそにしか聞こえない」

ポタポタと赤い血が

「本当だよ?愛してる」

「じゃあ…何で撃った?」

君の右腕から。


汚れた手でも触れたい




別に殺そうとしたわけじゃない。

右腕撃ち抜こうとしただけだ。

でもやっぱりさすが狗木ちゃん、

ちょっと避けられてかすっただけだった。

ただ、呼び止めたかっただけだった。

引きとめたかっただけだった。

でも俺の手は、


「まあたしかに私とお前は敵同士だな」

「うん」

「西区画の幹部と最下層の支配者」

「うん」

「殺し合いってことか?」

「…違う」

「じゃあなぜ撃った?」

銃を構えるその姿にも愛おしさを覚える。

「愛してるから…かなぁ?」

「普通の人間は好きな奴のことを撃たない」

「…」

「普通なら好きな奴を傷つけたくないと思うはずだが?」

「俺だって狗木ちゃんのこと傷つけたくないよ」

「矛盾しているな、本当は私のことなど好きじゃないんだろ?」

狗木ちゃんが右手に力を入れた。

違う、愛しているさ、心から。でも、ただ…


「俺は昔っから人殺しだから」

「?」

「何人も殺して、何人も撃って」

「だから?」

「だから俺の手は汚れてる」

「…」

「だから狗木ちゃんには触れない、汚すぎててさ」

狗木ちゃんの顔が歪む。

「本当は引き止めたかっただけなんだ、ごめん、でも俺の手よりは銃の方が綺麗だよ」

狗木ちゃんの腕から血が止まることはない。

きっと止血している間に撃たれるとでも思っているんだ。

「何人も何人も殺したんだよ?血の匂いがするんだ」

自分の手を握る。

「こんな手だ触れたら…狗木ちゃんも汚れちゃう」

「お前バカだな」

「え?」

「私の手だって汚れているさ、私だって殺人者だ」

狗木ちゃんが笑いながら言った。

「でも狗木ちゃんは戻れるよ?俺はもう無理だけど」

はぁとため息をついた後、狗木ちゃんが近づいてくる。

「狗…木ちゃん?」

銃はもう下ろしていた。そして


暖かい手に握られた。


「戻るつもりはないさ、それに…これで私もお前と同じくらい汚れた」

「狗木ちゃん…それじゃあ本末転倒なんだけど…」

まだ汚れきっていない暖かい手が

もう汚れきった冷たい手に。

暖かい手の持ち主の肩に頭を乗せた。

「ゴメン…狗木ちゃん好きだよ」

「あぁ…」


もしこの体の中でたった一つ汚れていない場所があれば、

それはこの唇だけでいい。

狗木ちゃんの暖かい体温を感じる。

手から、唇から。

「痛い?ごめんね」

「かなり痛いな」

「…狗木ちゃん寒いね」

「お前の体温が低いだけだ」

願わくば、君のこの手がもう汚れませんように。










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